トキメクもの
自然と人の営みが、
ともに育てた景色。

落葉樹の木陰で「牛がまどろむ風景」
広いまきばのあちこちに、ぽつりと立つ大きな木。その木陰に集まって、牛たちが静かに休んでいます。実はこの木々、明治の開拓期から放牧地に残され、植え足されてきた落葉樹です。夏は葉を広げて陽射しから牛を守り、冬は葉を落として地に陽を届ける。一頭ずつの一日を案じる――そんな思想が、いまも生きている景色です。雄大なまきばに点在する木の下で、牛が目を細めている。その光景に、優しさという言葉の意味を、教えられるはずです。

植物と人工物が共存する「明治の冷蔵庫」
小山を掘り、煉瓦でアーチを組んだ、明治38年の建造物。バターの瓶詰めと貯蔵のために建てられたこの冷蔵庫は、外気が30℃を超える夏でも、内部は10℃前後を静かに保ち続けます。屋根代わりの土と緑、煉瓦を覆うシダやコケ――地形と植生がそのまま冷却装置になっている。電気に頼らずとも品質を保てる仕組みを、自然のなかに編み込んだ明治の知恵。便利さの前にもっと深いやり方があったことに気付かされます。

木々に流れる、130年分の「静かな時間」
まきばを守る防風林、その奥に広がる約2,000ヘクタールの施業林。小岩井農場の森林は、開拓のころから一本ずつ植え継がれてきた人工林です。風から牧地を守るだけでなく、建築用材を産み、水を蓄え、生きものを養い、空気を浄める――いくつもの役割を、ただ静かに担い続けてきました。風が梢を抜けるたび、低い唸りのような響きが森を満たす。守り手として立ち続ける木々のなかに、130年分の静かな時間が流れているのを感じるはずです。
おすすめの過ごし方
大地のリズムに、
五感をひらく一日。
01

上丸牛舎で、
生きた文化財と向き合うまきば園から道を渡ってすぐ、上丸地区。明治4年から昭和10年にかけて建てられた4棟の牛舎、日本最古とされる2基の煉瓦サイロが、いまも現役で農場を支えています。一号牛舎・三号牛舎には見学スペースが設けられ、働く牛たちのすぐそばまで近づくことができます。朝の時間帯なら、運動場でゆったりと草を食む姿に出会えることも。ガラス越しに整えられた展示ではなく、100年以上ものあいだ途切れることなく続いてきた酪農の現場に、いま自分が立っている。その事実に気付くとき、歴史は教科書の中の出来事ではなく、地続きの「現在」として立ち上がってくるのではないでしょうか。
02

宮沢賢治の詩を片手に、
農場を歩く1922(大正11)年5月、25歳の宮沢賢治は小岩井駅に降り立ち、農場を縦断しようと歩き出しました。591行に及ぶ長編詩「小岩井農場」は、その日の心象スケッチです。賢治が「気取った建物」と評した本部棟、耕されたばかりの黒土を画家に由来する絵具名「ヴァンダイクブラウン」と言い表した耕地、無数の鳥の声で満ちた木立――いずれも当時のまま残されています。詩のページをめくりながら歩けば、ある一行が、目の前の景色とふいに重なる。賢治にとってここは、実在するイーハトーブだったのかもしれません。
03

土の記憶を、
舌で確かめる牧草地で育つとうもろこしは牛の飼料となり、その牛乳がチーズやバター、ヨーグルトに姿を変えます。耕地で実った小麦は、まきばの窯で焼くピザの生地や、お土産にぴったりの焼き菓子へ。土を耕し、家畜を育て、その実りを食卓に届ける――開拓のころから続くひとつながりの物語が、ひと皿のなかに凝縮されている。岩手山を眺めながら口に運ぶソフトクリームの濃さは、上丸の牛たちの暮らしぶりとそのまま地続きです。
その場所の物語
痩せた荒野に
「日本の食」を夢見た、130年。
1891(明治24)年、岩手山南麓の火山灰地に農場が拓かれました。
鉄道庁長官・井上勝、三菱二代社長・岩崎彌之助、日本鉄道副社長・小野義眞。3人の頭文字から「小岩井」と名付けられた農場です。
しかし土は痩せ、8年で経営は行き詰まります。これを、かねてより農牧業に関心の高かった三菱第三代社長・岩崎久彌が引継ぎました。
久彌は農牧業を、「日本人の体位向上に資する仕事」と捉えていました。
種畜を導入し、土壌を改良し、牧地を守る林を植える――この「畜主耕従」の方針が、いまも農場を支える背骨です。
不毛と呼ばれた土地が、100年以上をかけ、豊かな実りの場へ。
その時間の厚みに触れるとき、自分の日々の積み重ねもまた、確かに何かを育てているのだと思い出させてくれるはずです。
1891(明治24)年、岩手山南麓の火山灰地に農場が拓かれました。鉄道庁長官・井上勝、三菱二代社長・岩崎彌之助、日本鉄道副社長・小野義眞。3人の頭文字から「小岩井」と名付けられた農場です。しかし土は痩せ、8年で経営は行き詰まります。これを、かねてより農牧業に関心の高かった三菱第三代社長・岩崎久彌が引継ぎました。久彌は農牧業を、「日本人の体位向上に資する仕事」と捉えていました。種畜を導入し、土壌を改良し、牧地を守る林を植える――この「畜主耕従」の方針が、いまも農場を支える背骨です。不毛と呼ばれた土地が、100年以上をかけ、豊かな実りの場へ。その時間の厚みに触れるとき、自分の日々の積み重ねもまた、確かに何かを育てているのだと思い出させてくれるはずです。
岩崎家の人物紹介
農業を通して、
日本の食の礎を育てた人。

岩崎久彌
(三菱第三代社長)
久彌は若き日から農牧学に深い関心を寄せ、独学で豊富な知識を蓄えていました。その見識が、荒れた原野を日本有数の農牧事業へと育てる礎となります。見据えていたのは、一つの農場の成功にとどまりません。優れた家畜を海外から導入して品種改良を重ね、優良な種畜を全国へ供給する――畜産を根づかせ、日本人の暮らしと「食」を豊かにしていく構想です。土壌づくりから、牧地を守る防風林の造成まで、農場のすべてに確かな知見に基づく工夫が凝らされました。放牧地に残され、植え足された日陰樹もそのひとつ。一本の木の配置にまで行き届いた合理と先見が、いまもこの大地の風景そのものに刻まれています。
帰り道の足取りが、
少しだけ確かになる。
森を抜け、牛のそばに立ち、土の上で育ったものを口にする。
半日をかけてこの大地を巡るうちに、凝り固まっていた日々の輪郭が、いつのまにかほどけているはずです。
ここには、急がず、休まず、続いていく営みの時間が流れています。
そのリズムにしばらく身を浸したあとなら、
帰り道の足取りは、来たときより少しだけ確かになっているかもしれません。
アクセス
小岩井農場まきば園
岩手県岩手郡雫石町丸谷地36-1
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JR盛岡駅から路線バスで約35分
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JR小岩井駅から車で約10分
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東北自動車道 盛岡ICから車で約15分
インフォメーション
開園時間:
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グリーンシーズン 9:00〜17:00
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ウインターシーズン 12:00〜15:00、15:30〜20:00
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上丸牛舎 9:30~16:30
※季節・イベントにより変動あり。最新情報は公式サイトを要確認
入場料:
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大人(中学生以上) 800円
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子ども(5歳〜小学生) 300円
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上丸牛舎 大人800円/子ども300円(まきば園入場後の見学は無料)
※季節・イベントにより変動あり
駐車場:
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無料(大型30台、普通車1500台)
公式サイト:
関連サイト
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